咲きそうだったバラの蕾は、昨日の寒さでかたいままだったが、
今日はひとつ、開いていて、うれしかった。
100個以上、蕾がついてるよ、
というと、マァ~と感嘆して楽しみにしていた母。
ついに、そのひとつ目が開いたのだ。
と、いつの間に、手前の蕾も開いてきた。
匂いをかごうと、覗きこむと、もう蜜蜂が入って夢中で花粉をかき集めていた。
蜂が出て行くのをまって、顔を近づけると、新鮮な甘さがさわやかに鼻をついた。
母がうれしそうに
「いい匂い・・・」
と言うのを聴いたような気がする。
こうして庭にいると、さりげなく玄関から出てきて、よく一緒にいてくれたものだった。
今日も、ぼくがここにいる気配を察して、出てきてくれるような気がしてしまった。
ただ一緒にいてくれる、そのことがどんなにあたたかく、幸せな気持ちにしてくれたことだろう。
ひとつ咲いたと思ったら、すぐにもうひとつ開いたよ、
と父に言うと、この人には珍しく、素直に共感して、
ひとつひとつ開くのを、数えているのかもしれないね、
と言っていた。
そうかもしれない。
母はそんな風に、
ちいさな物事が少しずつ変わって行くのを、
喜びに感じることができる人だった。
そして、それをさりげなく分かち合う方法を知っている人だった。